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聞こえてるのに聞き取れない大人の聴覚過敏とAPD|ADHD・ASDとの関係と今日からの対策

聞こえてるのに聞き取れない大人の聴覚過敏とAPD|ADHD・ASDとの関係と今日からの対策

この記事のポイント

  • 「聞こえるのに聞き取れない」は気のせいではなく、脳側の聴覚情報処理の傾向として説明できる現象
  • 聴覚過敏(音が大きく・痛く感じる)とAPD/LiD(言語として抽出しづらい)は重なるが別物
  • 聴力検査で異常が出ないのは、耳ではなく脳の処理の話だから
  • 診断がつかなくても、物理・環境・言語化の3軸で対策すると日常の消耗が減る
  • 国内ではAPDは診断カテゴリとして確立していないため「LiD(聞き取り困難)」として扱う動きがある
もーやん

会議で話が全然頭に入ってこないんだよね。聞いてないわけじゃないのに、意味が組み立たない。

かりぶー

それ、「聞こえてるのに聞き取れない」ってやつかも。耳の問題じゃなくて、脳の処理の話みたい。

もーやん

耳鼻科で聴力検査受けたんだけど、異常なしって言われたよ。気のせい扱いされて終わった。

かりぶー

検査は耳の感度を測ってるだけだからね。聞こえた音を言葉として組み立てる部分は別の場所で起きてる。そこは今の聴力検査だと拾えないんだ。

「聞こえてるのに聞き取れない」という感覚に、名前はあります。この記事では、聴覚過敏とAPD(聴覚情報処理障害/LiD:Listening Difficulties)を区別しながら、なぜ聴力検査では異常が出ないのか、ADHD傾向・ASD傾向とどう重なるのかを研究ベースで整理します。そのうえで、今日から試せる物理・環境・言語化の3軸の対策と、医療ルートの現実的な使い方を紹介します。

目次

この記事が向いている人・向いていない人

この記事がどういう方に向いているかを先に整理しておきます。

向いている人
向いていない人
  • 会議やカフェで「声は聞こえるけど意味が取れない」現象に心当たりがある
  • 耳鼻科で「聴力は異常なし」と言われたが、日常の聞き取りに困っている
  • 「聴覚過敏」「APD」という言葉を最近見かけて、自分の困りごとと一致するか知りたい
  • ADHD傾向・ASD傾向との関連を、研究ベースで整理して理解したい
  • 診断の有無に関係なく、今日から使える具体的な対策がほしい

向いていない人の項目に当てはまる場合は、上記のリンク先の記事のほうが役に立つかもしれません。

「聞こえてるのに聞き取れない」|会議で起きていること

音は聞こえているのに、言葉として組み立たない――この感覚は、脳側の聴覚情報処理が関わる現象として研究で報告されています。

まずは抽象的な話より先に、実際の場面でどう現れるかを見ていきます。自分が経験した会議の一場面を紹介します。

エピソード1:10人会議の斜め向かい

10人くらいの会議。斜め向かいの人がなにか言ってる。声は聞こえてる。日本語なのもわかる。

でも意味が組み立たない。単語が一個ずつ流れていく感じで、文になって耳に入ってこない。

「どう思います?」って振られた。ちゃんと聞いてたつもりだったから、少し固まった。「すいません、もう一度いいですか」って聞き返した。

隣の先輩が「さっきのA案とB案どっちがいいかって話」って小声で教えてくれた。ありがたかった。

会議のあと、議事録を読んで「あ、そういう話だったのか」とやっと輪郭がつかめた。その場で聞けてない。

「聞いているのに意味が組み立たない」。集中していなかったわけではなく、集中していてもこれが起きる。ここが、一般的な「上の空」とは違う点です。会議で話が追えないこと自体の背景(注意・ワーキングメモリの問題を含む)は 会議で「話が追えない」ときの対処法 で別途整理しています。

「気のせい」で片づけられやすい理由

この現象が長らく「気のせい」扱いされてきた理由はシンプルで、外から観察できる症状が少ないからです。聴力検査は正常、本人も聞こえているとは答える、会話自体は成立しているように見える。しかし本人の中では、「意味にするまでの距離」が人より長い、という体験が起きています。

Alcantara et al. (2004) の研究では、高機能のASD成人は静寂下では定型発達と差がなくても、雑音下になると音声知覚の成績が有意に低下することが報告されています。つまり「静かな一対一では問題ないが、会議室やカフェになると急に聞き取れなくなる」という非対称な現れ方が、実験的にも確認されているということです。

聴覚過敏とAPDは違う|重なるが別の概念

聴覚過敏は「音の強さ・刺激の強度」の問題、APD(LiD)は「言語情報としての抽出」の問題で、重なる部分はあるものの別の現象として整理されています。

同じ「聴覚が関係するしんどさ」として一括りにされがちですが、困り方の質が違います。ここを分けて理解しておくと、自分の対策の方向性が決めやすくなります。

もーやん

聴覚過敏とAPDって同じじゃないの?どっちも「音でしんどくなる」話に見えるんだけど。

かりぶー

重なるけど別物だよ。聴覚過敏は「音が大きく、痛く感じる」。APDは「音は聞こえるけど、言葉として取り出しづらい」。ASD傾向の人は両方出やすくて、ADHD傾向の人はAPDに近い困りごとが目立つって報告が多い。

聴覚過敏(Hyperacusis)とは

聴覚過敏は、音そのものの強度や刺激量がつらく感じられる状態を指します。具体的には以下のような現れ方があります。

音の入り口(感覚のレイヤー)で起きている問題として整理される現象を列挙しておきます。

  • 特定の音が「痛い」と感じる
    食器のぶつかる音、子どもの甲高い声、駅のアナウンスなど、定型の人が平気な音でも身体的な不快感が出る
  • 普通の音量が「大きすぎる」と感じる
    オフィスの環境音、カフェのBGMなどが常に大音量で鳴っているように感じる
  • 複数の音が同時に来ると処理できなくなる
    BGM+隣の会話+エアコンの音、といった重なりで頭が飽和する

聴覚過敏はASD傾向の人に比較的多く報告されている現象ですが、ASDに限るものではなく、HSP、片頭痛、PTSDなど複数の背景と関連します。

APD/LiD(聴覚情報処理障害/聞き取り困難)とは

APDは Auditory Processing Disorder(聴覚情報処理障害)の略で、「音は聞こえているのに、言語として抽出・理解しづらい」状態を指します。国内では近年、「LiD(Listening Difficulties:聞き取り困難)」という呼称も併用されつつあります。

APD/LiDの現れ方は、聴覚過敏とは別のレイヤーで起きます。

  • 雑音下で特定の声を抜き出せない
    カクテルパーティー効果(雑音の中でも目的の声だけ聞き分ける働き)が弱い
  • 早口や小声が極端に聞き取れない
    言葉が音としては届いているのに、文として組み立たない
  • 文字情報があると急に理解できる
    議事録やチャットで同じ内容を見た瞬間、「あ、そういう話だったのか」と輪郭がつかめる

ポイントは、APD/LiDは「音量の問題ではない」ことです。声を大きくしてもらっても、雑音の中なら改善しません。むしろ静かな環境にする・文字を添えるほうが効果的です。

両者の違いを整理した表

聴覚過敏とAPD/LiDの違いを一覧で整理します。

観点聴覚過敏APD/LiD
困り方音が大きく・痛く感じる音は聞こえるが言葉にならない
レイヤー感覚の入り口(刺激の強度)脳の情報処理(意味の抽出)
典型場面食器の音、甲高い声、駅のアナウンス会議、カフェ、複数人の雑談
音量UPの効果逆効果(より痛くなる)効果が薄い(雑音も上がる)
有効な対策入力量を減らす(耳栓、ノイキャン)言語情報を補う(議事録、文字化)+雑音低減
よく重なる傾向ASD傾向、HSPADHD傾向、ASD傾向、言語関連の困難

この表は「どちらか片方だけ」という前提ではなく、両方が同時に起きている人も多いという理解で見てください。特にASD傾向の人は両方を抱えやすいと報告されています。視覚・触覚も含めた感覚過敏全体の整理は 大人の感覚過敏 ― オフィスで使える対策グッズ で扱っています。

エピソード2:カフェで相手の声が通らない

聴覚過敏とAPDが重なって起きる場面として、よくあるのがカフェの打ち合わせです。

同僚と打ち合わせでカフェに入った。隣のテーブルが盛り上がってて、BGMもそこそこ大きい。

相手の声が、BGMと隣の笑い声とぜんぶ同じレイヤーで入ってくる感じで、どれが相手の声かを意識して抜き出さないといけない。

5分くらいで頭がぐったりした。相手が「最近のプロジェクトさあ」って言い始めたあたりで、もう半分くらい聞き逃してた。

「ごめん、もう一回」って何回か言った。相手はちょっと不思議そうだった。

帰りの電車で、耳の奥がまだ鳴ってる感じがした。

この場面では、BGMと周囲の声が「痛い」わけではないけれど(聴覚過敏の軽い要素)、相手の声を抜き出し続ける認知的な負荷(APD/LiD側の負荷)が合算されて、5分で消耗しきるという現れ方になっています。

なぜ聴力検査では「異常なし」になるのか

一般の耳鼻科で行う聴力検査は「耳の感度」を測るもので、脳側の聴覚情報処理は評価していないため、APD/LiDがあっても検査結果は正常になります。

ここを理解しておくと、「気のせい」と言われた過去の体験を整理しやすくなります。

エピソード3:防音室でボタンを押した日

聴力検査で異常なしと言われた経験は、APD/LiD当事者の多くが通る場面です。

耳鼻科に行った。会議で聞き取れないのがしんどいです、と説明した。先生は「聴力検査してみましょう」と言った。

防音室でヘッドホン。ピーって音が聞こえたらボタンを押す。ちゃんと全部押せた。

結果は「聴力は年齢相応です。特に問題ありません」。

「でも雑音の中だと聞き取れないんです」って言ったら、「うーん、気のせいじゃないですかね。歳も歳ですし」と言われた。30代だった。

帰りの電車で、ネットで「聞こえるのに聞き取れない」って検索した。APDという言葉を見つけたのはそこが初めてだった。

この体験は「医療につながれなかった」というより、「検査の設計の守備範囲外だった」という話に近いです。

末梢聴覚と中枢聴覚

聴覚には大きく2つのレイヤーがあります。

  • 末梢聴覚
    耳そのものの機能。鼓膜、耳小骨、蝸牛(カタツムリ状の器官)で音を電気信号に変える部分。一般の聴力検査はここを測っている
  • 中枢聴覚
    脳に入ってからの処理。音を言葉として抽出する、雑音から特定の声を抜き出す、音の位置を特定するなどの働き。APD/LiDはここで起きている

一般の聴力検査(純音聴力検査)は、防音室で単音のピー音を聞かせるため、末梢聴覚の評価には適していますが、中枢聴覚の問題は検出できません。APD/LiDを評価するには、雑音下語音聴取検査や両耳分離聴検査など、専用の聴覚心理検査が必要になります。

「日本の医療でもこの現象は認識されつつある」

国内でも、日本聴覚医学会・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会関連の動きとして、APD/LiDに関する提言がまとめられています。ここでは、聴力検査で異常がなくても聞き取り困難を訴える成人が一定数存在すること、そして「APD」を単独の診断カテゴリとして扱うことには慎重な議論があること、近年は「LiD(聞き取り困難)」という呼称が併用されるようになってきたことが示されています。

Dawes & Bishop (2010) の研究では、APDと診断された子どもと言語・読みの問題を抱える子どもが重複するプロファイルを示しており、APDを独立した診断として扱うことに対する議論が提起されています。「APDと診断されるかどうか」より、「自分の聞き取り困難が何で起きているかを複数の軸から理解する」ほうが実用的、というのがこの研究から読み取れる含意です。

ADHD傾向・ASD傾向との関係|研究が示していること

APD/LiDの症状はADHDやASDと重なることが多く、特に雑音下の聴取成績の低下はASD傾向の成人でも報告されています。ただし「発達特性=APD」ではなく、重なる部分があるという理解が正確です。

ここはYMYLの観点から慎重に扱いたい部分です。以下の研究はあくまで「傾向」として提示するもので、自己診断の根拠にはなりません。

ASD傾向と雑音下の聴取

Alcantara et al. (2004) の研究では、高機能のASD成人は静寂下では定型発達と有意な差がないにもかかわらず、雑音下の音声知覚では有意に成績が低下することが報告されています。

ADHDとAPDの重なり

Moore et al. (2013) のレビューでは、APDは単一の障害ではなく、注意・記憶・言語処理を含む多層的な状態として整理されています。APD症状の多くはADHDや言語関連の困難と重なることが指摘されています。

ADHD傾向の人で「会議で聞き取れない」が出るとき、純粋な聴覚処理の問題というより、「注意の持続」「ワーキングメモリの容量」「処理速度」といった要素が絡んでいる場合があります。だからこそ、ADHD傾向の人に対してはノイキャン(入力側の雑音削減)と同じくらい、議事録AIや文字化ツール(処理負荷を下げる側)が効くことが多いです。

「発達特性=APD」ではない

大事な整理として、ADHDやASDの診断がある人が全員APD/LiD的な困りごとを持つわけではないですし、逆にAPD/LiD的な困りごとがある人が全員ADHD/ASDというわけでもありません。

Dawes & Bishop (2010) が指摘しているように、APDの症状は他のさまざまな発達的・言語的困難と重なるため、「どれか一つの診断で説明できる現象」ではありません。自分の困りごとを「脳の聴覚情報処理の傾向の一つ」として受け取りつつ、必要に応じて複数の補助手段を組み合わせる、というスタンスが現実的です。

もーやん

じゃあ自分がADHD傾向なのかASD傾向なのかわからなくても、対策はできるってこと?

かりぶー

うん。診断名や傾向の特定より、「雑音下でしんどい」「言葉として抽出するのに時間がかかる」という自分の体感に合わせて、入力側と処理側の両方で補助を入れるのが早い。診断を詰めるのは並行作業でいい。

今日から試せる対策|物理・環境・言語化の3軸

聞き取り困難への対策は、「物理(入力する音を減らす)」「環境(選ぶ場所・配置)」「言語化(文字で補う)」の3軸で整理すると、自分に合うものを組み合わせやすくなります。

診断の有無に関係なく今日から試せるものを中心に紹介します。1つずつ全部やる必要はなく、自分に合いそうなものから1つ試して、効果があれば次を足す、という進め方で十分です。

軸1:物理 ― 入力側の雑音を減らす

もっとも即効性が高いのが、入ってくる音そのものを減らす対策です。

  • ノイズキャンセリングイヤホン
    環境音を能動的に打ち消す仕組み。オープンオフィスやカフェの背景音を一段下げられる。音楽を流さなくても装着するだけで効果あり
  • 耳栓(フラットタイプ)
    音楽家・ライブ用の「音量は下げるが音質は維持する」タイプの耳栓。会議やランチで装着しても会話に参加できる
  • イヤーマフ
    在宅時、集中したいときに。聴覚過敏が強い日の「休憩用」として持っておくと安心

個人的な使用感として、オフィスでの作業時間にノイズキャンセリングイヤホンを使うようにしてから、午後の消耗が減りました。音楽を流さなくても、環境音が一枚下がるだけで、相手の声を抜き出す負荷が軽くなる感覚があります。

ノイキャンは「会議中も装着し続けていい」とは限りません。職場文化や会話の必要性に応じて、作業時間と会話時間で使い分けるのが現実的です。また、長時間連続使用は耳への負担にもなるので、休憩を挟むのがおすすめです。

軸2:環境 ― 場所と配置を選ぶ

物理対策と同じくらい効くのが、そもそも「聞き取りに有利な環境を選ぶ」ことです。

  • 静かな店を選ぶ
    打ち合わせでカフェを選ぶなら、BGMの小さい喫茶店や個室のある店。相手が「騒がしい店が好き」でも、リクエストする価値はある
  • 座る位置を選ぶ
    会議室では話者の正面・近距離に座る。オフィスなら空調ダクト・プリンターから離れた席を確保する
  • オンライン会議を活用する
    Zoomなどは相手の声がヘッドホンから直接届くため、雑音が混ざらない。在宅勤務・オンライン会議の日を意識的に増やす
  • 1対1の時間を設計する
    重要な合意形成は大人数の会議ではなく、1on1の時間を別途取ってもらう。「会議ではうまく考えがまとまらなくて」と伝えれば、だいたい通る

エピソード4:在宅ワークでの発見

環境を変えるだけでどれくらい楽になるか、自分の場合を紹介します。

在宅ワークになってから、1on1がすごく楽になった。Zoomで、相手の声だけがヘッドホンから直接入ってくる。雑音がない。

「この人ってこんなに話しやすかったっけ」と何人か思った。

オフィスの会議室で同じ人と話すときの「噛み合わない感じ」が、在宅だと消えた。

自分が話を聞き取れてないだけだったのかも、と思った。相手との相性の問題じゃなくて。

環境を変えるだけで「人付き合いの得意・不得意」の見え方まで変わることがあります。環境のせいで無用に消耗していた分が、別のところで出せるようになる。日常全体の疲れやすさの背景としては もあわせて参考になるかもしれません。

軸3:言語化 ― 文字で補う

3つめの軸は、聞き取りの負荷そのものを「文字で受け取る」ことで下げる対策です。これはAPD/LiD寄りの困りごとに特に効きます。

  • AI議事録ツール
    会議中にリアルタイムで文字起こしされるツール。Notta、tl;dv、Zoom AI Companionなど。聞き逃した瞬間に文字が追いつける
  • 会議前のアジェンダ事前共有
    何の話をするかを文字で先に入れておくと、脳の予測精度が上がり、同じ会議でも聞き取りやすくなる
  • 「チャットでも送ってもらえますか」を定型化する
    口頭で重要な連絡を受けた後、「念のためチャットでも送ってもらえますか」を口癖にする。言い訳を添えなくても通る
  • スマホの音声文字変換アプリ
    Google「音声文字変換」など。対面の打ち合わせでテーブルに置いておくだけで、ほぼリアルタイムで文字が出る

エピソード5:議事録AIに助けられた日

言語化補助を入れてみた日の体感は、想像以上に変わります。

会議にAI議事録ツールを入れるようになった。リアルタイムで文字が出るやつ。

最初は「読みながら聞くのは邪魔かな」と思ってたけど、逆だった。聞き逃した瞬間に文字が追いつけるから、脳の負荷がぐっと減った。

会議のあと頭が痛くなくなった。こんなに消耗してたんだ、と気づいた。

上司にも「議事録の精度が上がって助かる」って言われた。こっちが助けられてる。

議事録AIの副次的な効果として、「聞けなかった自分が悪いのか、相手の話が組み立っていなかったのか」の切り分けもできるようになります。文字で読み返して「そもそも話が飛んでた」とわかることも意外と多く、自己責任で抱え込む癖が少し緩みます。

3軸の組み合わせ早見表

3つの軸を困りごとの種類別に整理しておきます。

困りごと物理環境言語化
オープンオフィスで消耗するノイキャン+耳栓席を選ぶ/在宅日を増やす
会議で話が追えないノイキャン(自席作業時)話者の正面に座るAI議事録/事前アジェンダ
カフェで相手の声が通らないフラット耳栓静かな店にする/個室スマホ文字変換を併用
電話が特に苦手静かな場所に移動「後でメールでも送ってください」を定型化

全部同時にやる必要はありません。「自分が一番消耗している場面」を1つ選んで、その列を縦に見ながら1〜2個試してみる、くらいが続けやすいです。

医療ルート|APD検査ができる場所は限られる

APD/LiDの検査ができる医療機関は国内では限られており、一般の耳鼻科では対応していない場合が多いです。受診の前に施設の対応範囲を確認しておくと、「気のせい扱い」の経験を繰り返さずに済みます。

医療ルートは「必須」ではなく「選択肢の一つ」として捉える姿勢が現実的です。対策の3軸は医療とは独立に進められます。

一般の耳鼻科でできること・できないこと

一般の耳鼻科(クリニック)の多くは、純音聴力検査・語音聴力検査・耳鏡検査など末梢聴覚の評価を中心に行っています。APD/LiDに対応した雑音下語音聴取検査・両耳分離聴検査などを実施している施設は限られます。

受診前に確認できるポイントを整理しておきます。

  • 「APD検査」または「LiD検査」の実施有無
    施設のウェブサイトや電話で、APD/LiDの検査を行っているか直接確認する
  • 成人対応か
    APD/LiD検査は子ども向けに実施している施設が多く、成人の受け入れは限定的。事前に「成人で受けたい」と伝える
  • 自費か保険か
    検査の一部が自費になる場合もある。費用は事前に確認

APD/LiD検査を実施している施設は、大学病院や専門外来に限られることが多いです。お住まいの地域で対応施設が見つからない場合、対策3軸から先に試すのは十分現実的な選択肢です。

受診の期待値をどう持つか

受診を検討するときに、期待値を現実的に持っておくと落胆しにくくなります。

  • 「APDと診断されます」とは限らない
    国内ではAPDは診断カテゴリとして完全には確立していない。「聞き取り困難(LiD)の傾向あり」といった表現になる場合もある
  • 特効薬はない
    APD/LiDに対する薬物治療は確立しておらず、対策は本記事で扱った3軸の環境調整が基本になる
  • 補聴器型のリモートマイクが選択肢になることもある
    話者にマイクをつけてもらい、聞き手のイヤホンに直接届ける仕組み。症例によっては有効

医療での検査を受ける価値は、「自分の聞き取り困難の輪郭を、第三者の客観評価で整理できる」ことにあります。診断名がつくかどうかよりも、「末梢聴覚には問題がなく、中枢聴覚のこの部分に偏りがある」というレベルで言語化できると、職場や家族への説明もしやすくなります。

栄養・体調側から土台を整える話は ADHDと栄養の関係|「サプリで治る」ではなく「欠乏が症状を悪化させる」を研究から読み解く でも扱っていますが、聴覚処理に直接的に効くと証明された栄養素は限定的です。聴覚の話は「物理・環境・言語化の3軸」を先に試すのが実用的です。

よくある質問(FAQ)

APDは日本で診断されますか?

国内では、APDは独立した診断カテゴリとして完全には確立していません。近年は「LiD(Listening Difficulties:聞き取り困難)」という呼称が併用されつつあります。一部の大学病院・専門外来で検査は受けられますが、「APDです」と確定診断されるというより、「聞き取り困難の傾向があり、このタイプに当てはまる」という評価になることが多いです。

聴覚過敏とAPDの両方を持っている場合はどうすればいいですか?

両方が重なっている場合も珍しくありません。対策としては、物理対策(ノイキャン・耳栓)が聴覚過敏側とAPD側の両方に効くことが多いので、まずそこから試すのが現実的です。そのうえで、言語化補助(議事録AIなど)をAPD側の補助として追加する、という順番が扱いやすいです。

聴力検査で異常なしだったのに、本当にAPDなんでしょうか?

聴力検査は末梢聴覚(耳そのもの)の機能を評価するもので、中枢聴覚(脳の情報処理)は評価していません。そのため「聴力検査が正常」と「聞き取り困難がない」は別のことです。「気のせい」とは限らず、脳側の処理の傾向として説明される可能性があります。正確な評価にはAPD/LiDに対応した検査が必要です。

ADHDやASDの診断を受けていなくても、APDの可能性はありますか?

あります。APD/LiDとADHD・ASDは重なる部分が多いものの、一方がもう一方を必要条件にするわけではありません。発達関連の診断がなくても聞き取り困難を抱える人はいますし、逆にADHD・ASDの診断があっても聞き取りには困らない人もいます。自分の体感を軸に、必要な対策を組むのが現実的です。

職場にどう説明すればいいですか?

「聞き取りに時間がかかるタイプなので、重要な連絡はチャットでも送ってもらえると助かります」「会議はアジェンダを事前にいただけると整理しやすいです」など、診断名を出さずに「聞き取りの特性」と「具体的なリクエスト」で伝えるのが実用的です。診断名を出すと人事・上司側の判断が慎重になり過ぎることもあるので、配慮が必要な場面を具体化するだけでも十分機能します。

まとめ

もーやん

「聞こえてるのに聞き取れない」って、気のせいじゃなかったんだね。聴覚過敏とAPDは別物で、自分はたぶん後者寄りってこともなんとなくわかった。

かりぶー

うん。「耳は正常です」と言われても、脳の聴覚情報処理のところで起きてる話だから、聴力検査だけでは拾えないんだよね。まずその輪郭がわかるだけで、自分を責めなくて済む。

もーやん

対策も、全部一度にやらなくていいって思えたのが楽だった。ノイキャンと議事録AIから始めてみる。

かりぶー

最初の1つが一番大事。ノイキャンは入力側、議事録AIは処理側。その2つだけで、会議の消耗はかなり変わるはず。やってみて「こんなに楽になるのか」を一度体感してほしい。

もーやん

医療ルートは急がなくてもいいってわかったのも良かった。気のせい扱いされた記憶があるから、正直ちょっと怖かった。

かりぶー

焦らなくて大丈夫。対策3軸は医療と独立に進められるから、先に日常の消耗を下げつつ、気が向いたときに専門外来を調べればいい。自分の脳の傾向として理解しておくだけでも、だいぶ違うよ。

参考文献

  1. Alcantara, J. I., et al. (2004) “Speech-in-noise perception in high-functioning individuals with autism or Asperger’s syndrome” — PubMed
  2. Moore, D. R., et al. (2013) “Nature of auditory processing disorder in children” — PubMed
  3. Dawes, P., & Bishop, D. V. M. (2010) “Psychometric profile of children with auditory processing disorder and children with dyslexia” — PubMed
  4. 日本聴覚医学会/日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会関連「APD(聴覚情報処理障害)/LiD(聞き取り困難)に関する提言」

本記事の情報は公開時点のものです。発達障害の診断基準や聴覚関連の検査・呼称(APD/LiDなど)は変更される場合があります。
本記事は医療上のアドバイスを提供するものではありません。具体的な診断や治療については医療機関にご相談ください。

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この記事を書いた人

「なんかしんどい」の正体に、対処法をお示ししていくメディアです。

運営者はグレーゾーン当事者(通院歴あり・WAIS等で凸凹判定)。
大手企業で働きながら、自分自身の「得意と苦手の凸凹」と折り合いをつける方法を模索してきました。

このサイトでは、当事者としてのリアルな体験と、論文・臨床知見など学術的根拠に基づく構造的な整理を掛け合わせ、「高機能グレーゾーンの大人」が使える実用情報をまとめています。

記事の内容は臨床心理士・公認心理師の有資格者の確認を経て公開しています。しかし、私たちは医療の専門家ではありません。診断や治療の代替となるものではないことをご承知おきください。

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